今年は仕事をもっと楽しみながらできるようにと考えて、仕事場の空間を変えることを決めました。
私の最初のアトリエは六本木の端っこにある静かでのどかな古い洋風のアパートでした。
その部屋は味わいのある漆喰の白い壁にアーチ型の木枠の窓が並んでいて傷さえも愛おしく見える使い込まれた床の色がきれいでした。古びた真鍮のドアノブや硝子の電気の傘、作りつけの棚そこかしこに昔懐かしい造作がなされた空間は私がコスチュームアーチストとして仕事を始める後押しをしてくれるように使いやすく気持ちの良い空間でした。南の窓からは燦々と日が差し込み、窓から見える赤い東京タワーは春には満開の桜の花と饗宴するように佇み、まさにレトロな東京土産のポストカードみたいな情景でした。
そんなお気に入りの空間を後にしたのは自宅を西麻布に引っ越すことになったからでした。仕事と家庭を両立するために仕事場は歩いて通える距離と決めていたので仕方のない選択でした。
次に借りたのは家から三分の高台にある小さな五階建てのマンションの一階でした。庭もあり高台の下が児童公園になっているので前を遮る物もなく、ちょっと小さくなった東京タワーも公園の桜と共に見ることが出来、環境はまずまずでしたが部屋の中は四角い白い壁に囲まれただけの空間で、それ以上の驚きも空間がもたらす興奮もありませんでした。
二〇〇二年が終わるある日、新聞に挟まれていた一枚のチラシが気になって家から十分のマンションの一室を訪れました。その日はお散歩するのにもってこいの暖かい日射しの土曜日でした。部屋に入ると三つの南向きの窓から暖かい光りが部屋いっぱいに射し込んでいました。そしてマンションの七階にあるこの部屋からは、いつもお散歩している青山を上から眺められ、それはまるでおしゃれなミニチュアの世界を見ているようでした。そしてその先に小さくなった東京タワーも見えました。
私はあっという間にこの部屋に引っ越すことを決めました。四角いマンションのお部屋は解体をして一から使いやすくて楽しい空間作りを始めています。
初春には新しい空間で仕事をしています。またその時に新しい部屋の様子をお話しいたします。乞うご期待下さいませ。

春が待ち遠しいハチの巣の帽子です。桜の花と蜂や蝶々も飛んでいます。資生堂の今年のカレンダーで内山理名さんがかぶっています。すごく可愛いかったですよ。

2003年4月NO.113号掲載