2月の終わりに新しい事務所に引っ越しました。
寒いある日の新聞折り込みちらしに何故か気持ちが動いて出かけて見ました。部屋を訪ねると南向きの窓から暖かい日射しが部屋中を暖めて冬だと言うのに中はポカポカしていました。それが引っ越しを決めた大きな要因でした。
既存の壁や床、天井まで全てを取り除き新しい空間作りが始まりました。
私の仕事柄、布をたくさん使うので制作中の服や色々な色の布きれや糸が散乱します。だから空間は極力シンプルにクールに作りたいと決めました。もう一つ大事にした事は今使っている家具を生かすことでした。
それ程広くない空間を有効に生かすために壁面いっぱいに収納を作りました。知り合いの家具屋さんに頼んでアルミに大きな引き具を兼ねた金物でポイントを付けた扉を作ってもらいました。あたかも大型冷蔵庫に囲まれているようですが、その中には大量の布や作品のファイルや実は洗濯機までが整然と治まっています。
古い何台もの作業台には扉とは光沢の違うアルミの板を被せ、新品同様に生まれ変わりました。昔は生地棚だった背の高いスチール棚を短く切って作業台の脚にしたので机の下にも収納スペースを確保する事が出来ました。
お茶を入れたり、時には染色もするキッチンスペースには事務机にしていた木のアンティークのテーブル面に小さなタイルを貼ってコンロを置く台にしました。そのまわりにはロンドンで買った小さな陶器のフックを並べて小さなまな板や鍋つかみを下げ、ずっと前に貰って使いこなせなかったフランスみやげの小物入れも、このために取って置いたように洗剤入れとして可愛く並びました。
他にも以前は別の色だった棚や大きな鏡も黒にペイントして新しい空間との相性が良くなり、これからも大切に長く使って行けそうです。
アルミの家具が大半を占める空間ですが冷たく成りすぎないのにはウォールナットというクルミの木との出会いがありました。やはり家具屋さんと話していた時に家具作りで出た端材が、たくさん倉庫に眠っていると言う話を聞きました。クルミの木は落ち着いたブラウンで今までの私には少し大人っぽく感じる色でしたが、これをつなぎ合わせて床材にして見ることにしました。もちろん手間は掛かりますが材料は素敵に蘇り、アルミの素材とも効相性でした。
そして部屋をもっと広く見せるためにベランダの床も手摺り部分も同じ素材で引き詰めました。又、大きな打ち合わせ用のテーブルと引き出しも同素材で作ってしまう程この木が好きに成っていました。
この
空間作りでは家具屋さんを始め、友人に助けて貰いました。空間を作ったことがきっかけで色んな輪が広がりアイデアが生まれて、この時作った家具は商品化も考えていたり今まで遊びだけのつき合いの友達と新しいプロジェクトが生まれたり、とても刺激的な展開がありました。
もちろん事務所の居心地も最高です。唯一、困っている事は仕事をつい頑張ってしまうことでしょうか。気を付けなくっちゃ。

ひびのこづえ

この
不思議な服は舞台「青ひげ公の城」の衣装の1つです。ストッキングの様な薄くて伸びる素材にボーンを輪にして形を作っています。モデルのさちさんの長い手足を入れると、とても不思議な存在感の魅力がありました。

2003年10月NO.116号掲載